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博多祇園山笠用語辞典 YAMAKASA DICTIONARY

きゅうり(胡瓜)(きゅうり)

ウリ科キュウリ属のつる性一年草。
全体の約95%が水分で構成されており、100グラムあたりのカロリーが14kcalと非常に低いため、ギネスブックにおいても「最も熱量が低い果実」として認定されている。

夏野菜を代表する野菜で、生のまま味噌をつけて齧ったり、サラダ、寿司(かっぱ巻き)、酢の物、和え物、塩揉みなどで提供されるほか、ピクルス、オイキムチ、かっぱ漬け、奈良漬け、醤油漬けなどの漬物の材料としても使われる。

インド北部ヒマラヤ山麓原産で、日本では平安時代から栽培されており、栽培が盛んになったのは昭和初期から。
江戸時代までは主に完熟させてから食べていたそうだが完熟した後のキュウリは苦味が強くなるため、徳川光圀、貝原益軒はその味を酷評している。 江戸時代末期に品種改良が行われて食感や味が良いきゅうりが出来るようになってから急速に栽培面積が増し、生食用野菜として不動のポジションを獲得した。

『胡瓜断ち』

祗園山笠期間中、『博多ではきゅうりを食べない』という事は有名な話で、舁き手は祭り期間中はきゅうりを口にしない。

その由来は、山笠の祭神である素戔嗚尊(すさのおのみこと)の神紋が輪切りにしたキュウリの形に似ており、大変畏れ多いと氏子が食べることを遠慮しているため・・・と言われている。

※ちなみにテレビで山笠の「きゅうり断ち」を説明する時に、この画像をこっそり使っている番組が多い。ちゃんとチェックしてるからね!(中の人談)

ただ、祗園神の紋は木瓜(ぼけ)の花が由来なのできゅうりが由来ではない。
一説によると、京都の祇園社に織田信長が織田家の家紋をつけて寄進したが、織田家の家紋は「織田木瓜おだもっこう」と呼ばれるして木瓜(ぼけ)の花が図案化されている。これを博多っ子が「木瓜」を「きゅうり」と読んでしまい、櫛田の紋と結びつけてしまったのではないか・・・という説もある。(そもそも、逆に木瓜は胡瓜の事であるという説もある)

なお、1765年に書かれた当時の福岡の歴史を伝える「石城志」では、このきゅうり断ちの事を「俗説のまどい、笑うにたへたり」と記されている。

とはいえ、その俗説を俗説と扱ってきゅうりを食べて失敗や怪我でもしようものなら「きゅうりを食べたけんたい」と言われるため、「絶対に7月15日までは食べまっせん」と厳守する人が多い。実際、レストランなどでサラダにきゅうりが入っていると、無言でつまんで横に避けたりする人もおり、1976年(昭和51年)の新聞では「山笠中はキュウリが1~2割売れなくなる」という調べが書いてある。

このように、この風習は山笠地区だけに生きる博多部だけの独自な風習であるので、他の地域の人は全く知らないことが多い。そのため、他地域出身で博多部の飲食店に勤めている人がこの風習を知らずに料理にうっかりきゅうりを出してしまい、山笠の参加者から大変お叱りを受けたり、『もうここには二度とこんバイ』とどなられた・・・という話もあったりする。

このきゅうりにたいするタブーは博多の小学校の給食献立表にも表れており、7月1日から15日までの期間は献立表に「きゅうり」の文字がない。山笠に出る子供がきゅうりを食べた・食べないで言い争いになる種をわざわざ作る必要はなく、食材豊富な現代にこの期間に敢えてきゅうりを出すぐらいなら他の夏野菜を出せばよい・・・という判断が行われているらしい。

山笠期間にきゅうりを食べるのは縁起が悪い、という理由もあるが、きゅうりは山笠の時期がちょうど食べごろ。 その旨い食べ物を断ってまで祭りに精進する、精進潔斎(飲食を慎み、不浄や汚れを寄せ付けずにひたすら修行に専念し、心身を清らかにすること)の意味もあると考えられている。
また、体を冷やす食べ物でもあるから、食べ過ぎると体調を壊しやすくなるから慎む、という説もある。 どの説にしろ、食べたくても食べずに精進に励め、という事である。

ただ、何度も書くが「きゅうり断ち」は迷信や言い伝えの一種ではある。近年では食べる事を気にしなかったり、「きゅうりを縦割りにしたら祇園紋じゃないから大丈夫たい!」という人もいたり、「オクラの方が神紋に似てる」とオクラを食べない人も増えているという。

このきゅうり断ちは追い山が終わるまでなので、7月15日の追い山笠が終わった後の直会に、きゅうりのなます(酢物)が出される町もある。それを口に運んで「ああ、山笠が終わった」と実感する人が多いらしい。

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