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博多祇園山笠用語辞典 YAMAKASA DICTIONARY

祝いめでた(いわいめでた)

博多のハレの場では必ず唄われる祝い唄で「博多祝い歌」とも言われる。漢字にすると「祝い目出度(めでた)」となる。
この曲を唄い終わったら「(博多)手一本」でその場を締めるのが博多の習わし。

博多祇園山笠では、追い山(7月15日早朝)において一番山笠が櫛田入りをする際に、一番山笠のみこの「祝いめでた」を唄えるというとても名誉な特権が与えられいる。

他にも、流舁きでは訪問した企業等に感謝の気持ちを込めて、追善山笠では故人を偲んで、追い山笠終了後には山笠が無事終了したことを祝って・・・と様々な場面で唄われる。

また、山笠文化が根付いた博多では、会合や宴会・飲み会などの場を締める時にもよく唄われる。
最も有名なのが結婚式で、式の最後に年長の方や親族の兄弟などが祝いめでたを唄い披露宴パーティを締めるのは、博多の結婚式ならではのシーンである。

その場の者が共に手拍子で合唱する「祝いめでた」は荘厳かつ迫力があり心を揺さぶる。
冬にYouTubeで祝いめでたの動画を見てしまうと血がたぎってしまい、夏が待てない衝動に駆られる舁き手も多いとか。

アビスパ福岡が2023年11月4日に国立競技場で行われた「2023JリーグYBCルヴァンカップ」にて浦和レッズを下して初優勝を達成した際、スタンドでサポーターたちが歓喜の祝いめでたと博多手一本を入れた。

「祝いめでた」の歌詞

山笠に限らず博多では祝いめでたは様々なシーンで謡われる。
博多祗園山笠では主に1番が歌われるシーンが多いが、追善山笠では他の番も歌われる事もある。
また、博多の酒宴やめでたい席などでは歌われる頻度が高い。歌う人が3人並び、順番に1番から3番まで歌う事が多く、歌詞を覚えているか、うまくつながるかなどで、歌う人の”手腕”が問われる。
祝いめでたを歌った後に、博多手一本が入れられて、その場が締められるというのがセットとなっている。

一、
祝い目出度の若松様よ 若松様よ
枝も栄ゆりゃ葉もしゅげる
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

二、
こちの座敷は祝いの座敷 祝いの座敷
鶴と亀とが舞い遊ぶ
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

三、
さても見事な櫛田の銀杏(ぎなん) 櫛田の銀杏(ぎなん)
枝も栄ゆりゃ葉もしゅげる
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

通常では上記の3番まで覚えておけば大体問題ないが、実は祝いめでたは7番まである。
7番までの歌詞は通常あまり聞かないが、1番から3番以上にさらにめでたい歌詞がずらりと並んでいるので、結婚式などで歌われる事が多い。

四、
こちのお庭に 御井戸を掘れば 御井戸を掘れば
水は若水 黄金(かね)が湧く
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

五、
旦那大黒 御寮(ごりょん)さんな恵比須(えべす) 御寮さんな恵比須
出来たその子は 福の神
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

六、
舟は大黒船 船頭さんな恵比須 船頭さんな恵比須
乗せたお客は 福の神
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

七、
あんた(ああた)百まで わしゃ九十九まで わしゃ九十九まで
ともに白髪の 生ゆるまで
エーイーショウエ エーイショウエー
ショウエイ ショウエイ ションガネ
アレワイサソ エサソエー ショーンガネー

祝いめでたの歌い方

祝いめでたは、最初は一人で歌い、途中から参加者全員で歌う。
歌詞で言うと「♪祝い目出度の若松様よ 若松様よ」がソロパートで、そこから参加者全員でのユニゾンとなる。

全員のユニゾンから手拍子を取りながら歌うのだが、手拍子ではなく手を打った瞬間に”手を擦る(または揉む)”のが正しい所作。これを実践すると、結構通っぽく見える。

(なお、手拍子での手をする所作は、民謡などの手拍子でも見られる。なぜ手を擦るのかは不明。これについて、ナビの中の人の超推測ではあるのだが、神社参拝時の基本の参拝作法「二礼二拍手一礼」での拍手は、右手を左手より少し下にずらして行うのだが、様々な説があるが『左手を『陽=霊=神』、右手を『陰=身体=人』と考え、神様と人間はまだ一体ではないため右手をずらし、最後にずらした指先を合わせることで、神様と人が一体となり力を得る」などという理由があるらしい。この拍手の「手をずらす」行為が、手拍子にも反映されているのではないか?・・・というのが、ナビの人の根拠のない推測である。)

2番、3番と続く際は、打っている手はそのまま打ち続ける。1番と2番で歌う人のテンポが違う場合は、手を擦る時間をうまく延ばしたりして、歌う人のテンポに合わせて手を打つ。

また2番、3番と続く際、最後の「♪エサソエー ショーンガネー」から次のスタート「♪こちの座敷は祝いの座敷」のつなぎが結構難しい。特に大きな場であるとマイクが立てられ、歌う人はマイクの前で入れ替わりながら歌うため、入れ替わりの時間が発生してしまう。
間が空いてしまうと手を打つ音だけが続いて少々淋しい間が出来てしまうので、1番を歌った人は素早く次の人に繋ぎ、2番を歌う人は素早く入って手を入れるリズムに乗って歌い始める・・・という歌う人たちの技術と連携力が問われる。

起源は『伊勢音頭』

祝いめでたの起源は、伊勢音頭にあると言われている。
江戸時代、一般人は住んでいる地域から自由に外にでることが許されなかったが、唯一外に出ることが許されていたのが伊勢の国(現・三重県)にある伊勢神宮に参拝する「お伊勢参り」だった。
伊勢の地でよく謡われていた伊勢音頭は、享保年間(1716年〜1736年)に奥山桃雲によって作られた伊勢河崎音頭が源流と考えられている(※伊勢木遣り唄と伊勢地域の盆踊りから伊勢河崎音頭が成ったとも考えられている)。伊勢の土地と伊勢の神々を讃える歌詞が謡いあげられる祝い唄で、合いの手が入れられながら歌われる。この歌を「荷物にならない土産」として、長い旅を経て伊勢までやってき旅人が故郷へ持ち帰り、日本全国に広まったとされており、持ち帰られた唄は、その土地土地の文化と入り混じって地域での最適化(ローカライズ)がされていったと推測される。

兵庫県芦屋市に伝わる伊勢音頭の説明には、「村の祝い事や祭りの日や酒宴などがあると、必ず伊勢音頭が唄われた」「必ず唄い始めは、”祝い(または目出度)目出度の若松さまよ 枝も盛えて葉も茂る”で始められる」「伝承の物や即興のめでたい歌詞がつづけられた」と記述されており、歌詞を見ると博多祝い唄との相似性がかなりあることがわかる。

ああよーいさ めでためでたの ヨイヨイ わかァまーつさまよ アーヨーイセー ソーラセイ
それ枝もなあ栄えて そうれさ葉も茂る ソラヤートコセーヨーイヤナー
ソレワイナーコレハイナー ソラヨーイトセ

此処の座敷は目出度い座敷 床なる松を眺むれば
一なる枝には一分金 二なる枝には二朱銀 三なる枝には裏に波打つ四文銭
末は銅銭が鈴こなり

此処の座敷は目出度い座敷 床なる掛図を眺むれば
戎子さんと大黒さんと相撲とる 大黒さんが負けたら槌渡そう 戎子さんが負けたら鯛渡そう
福は此方へ皆渡そう

此処の座敷は目出度い座敷 上から吊るが舞い下る
下から亀が舞い上る 鶴と亀とが舞を舞う

※芦屋市立図書館「芦屋の生活文化史」第四章芦屋の芸能より抜粋

また、愛媛県西条市で唄い継がれてる伊勢音頭では、ローカライズされた上記の歌詞が歌われているのが確認できる。

博多の祝いめでたも同様の形で、伊勢音頭(北勢伊勢踊り)が博多の文化と混ざって歌い継がれていくことで、現在我々が口ずさむ歌詞や形になったものと推測される。

歌詞の意味

歌詞のカタカナ部分について、どういう意味なのかについては、現時点も不明である。
前述の通り、博多の祝いめでたの起源が伊勢音頭であると考えるなら、伊勢音頭にある合いの手部分が変容していった、と考えられる。

2021年7月2日にKBCラジオにて放送された「博多の魂~エイショ-エ~」内で、KBC九州朝日放送の長岡大雅アナウンサーが、櫛田神社の阿部宮司にこの歌詞の意味について質問したところ、宮司は笑いながら「まあ、いいじゃないですか」とはぐらかした。また、博多祇園山笠振興会の武田会長は「意味はあったと思うが長い間歌い継がれていったなかで響きだけ残ったのでは」と見解を述べた。

この見解については、博多人形を取り扱う「人形のごとう」のサイトにある”博多祝いめでた 歌詞について”で紹介されている。

エイ=「えい!」「さあ!」(掛け声)
ショウエイ=「歌いましょう」
アレワイサソ=「私も誘いましょう」
エサソエー=「ええ、誘いましょう」
ショーンガネー=「しょうがない」

つまり”「歌いましょう、歌いましょう」と誘われ「しょうがないなあ」と誘いに乗って歌う”という意味の歌詞ではないか?とのことだが、やはり推測の域を出ないため確証がない。

ちなみに、伊勢音頭の合いの手の部分は、
・ヤートコーセノ = 弥長久(イヤトコシエ):伊勢の神鎮座がこの地に定まり長久に喜びが伝わる
・ヨーイヤナー = 世恰弥也(ヨイヤナア):世の恰(よろこび)も弥々大成した
・アララー = 安楽楽(アララ):これで世は安心だ、楽になった
・コレハイセー = 是者伊勢(コレワイセ):ここは神が鎮座する伊勢の国
・コノヨイトコセー = 善所伊勢(ヨイトコイセ):伊勢は善い所だ
という解釈もある。

「祝いめでた」の動画

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