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博多祇園山笠用語辞典 YAMAKASA DICTIONARY

手一本(ていっぽん)

「博多手一本」とも呼ばれ、物事の終了、約束事の確認、決定意思を確認する時に行う作法。
手一本という名称ではあるが、一般的な手一本(いわゆる「一本締め」)とは違い、独特の拍子で複数回手を打つのが特徴。他県・他地域の人が、ほぼ戸惑う博多の文化のひとつに挙げられる。
博多では、この手一本を行う際は「手一本を入れる」「手を入れる」と言う。

手一本の行い方

博多手一本は、その場仕切り役が「手一本入れます」「手一本!」と声を掛けると、体の前で手を打つ体勢を整え、

# 「よーお」(パン・パン)
# 「も一つ(もひとつ)」(パン・パン)
# 「祝うて三度(いおうてさんど)」(パパン・パン)

・・・と、その場の仕切り役の掛け声に合せて行うのが慣例。
山笠経験者による手一本は、大変スピード感があって訛って聞こえる事も多く「も一つ」が「まひとつ」「もーつっしょ」「まひとつしょ」に、「祝うて三度」が「いおうてさん」「よーてさんど」「よーとさん」「よてさん」と聞こえる事もある。

千代流は、7月15日の追い山笠で須崎町の廻り止めに到着すると、その場で歓喜の手一本を入れるのが恒例となっている。

また、博多の老舗菓子舗の石村萬盛堂が2021年に発売した「祝うてサンド」は、この博多手一本がモチーフとなっている。

手一本は「区切り」を意味するが、博多でこの手一本を入れる事は「後日、異議を申しません」という約束であり、手一本の後に異議や異論を唱えることは不作法とされている。また、そのような意味合いでの場での手一本の後は、拍手をする事も不作法とされる。

山笠以外の場での手一本

この手一本は山笠の場だけではなく宴会や結婚披露宴などの宴の席の最後に行われる事も多く、この場合は全員で「祝いめでた」を唱和した後に、手一本を入れて終わる事が多い。
特に結婚式で行う手一本は、「締め」と「異論なし」の意味から「この結婚を了承しました」という事を意味しており、図らずも式参列者による”人前結婚式”の形で扱われる事になっている。

結婚式など県外の人が多数いるシーンでは、まずは博多手一本の独特の作法に慣れてもらうため、手一本の簡単な説明と簡単な練習を行ってから、”本番”の手一本を入れる事が多い。

ちなみに、2011年のプロ野球日本シリーズにおいて、地元・福岡ソフトバンクホークスが中日ドラゴンズを破り8年ぶりに日本一を達成し、歓喜のビールかけを締める時、松田宣浩選手が「一本締めで締めます!」と一本締めを行ったのだが、SNSでは「福岡の球団なのに博多手一本じゃないんかい!」というツッコミが多数あふれた。

博多ではこのようなシチュエーションは多々起きており、博多座で行われる落語会では落語家が音頭を取って一本締めや三本締めで終わる事があるのだが、会場の博多の人々は「手一本じゃないんだー・・・」とモヤモヤしながら一本締めに則ることが多い。
その一方で、博多華丸氏が主演を務めた舞台版「めんたいぴりり」は、流石というか当然というか、しっかり博多手一本で締められ、観客は皆納得して手を入れていた。

なお、アビスパ福岡は、地元福岡市のサッカークラブであることから、試合に勝った後はサポーターと共に博多手一本を入れるようにしており、2023年11月4日JリーグYBCルヴァンカップ優勝時には新国立競技場に歓喜の博多手一本を響かせた。

「手一本」と「手打ち」

山笠期間中では、参加者が各町を出発する際や、集合の際の当番町と各町間でも行う際にも「手一本」が行われる。
ただ、この時の手一本には締めの意味はなく「よろしくお願いします」というあいさつの意味で行われているるため、こちらの手一本は「手打ち」と呼ばれる。

他地域の「手一本」

博多以外の地域にも、博多手一本に似た手一本が存在する。

大阪の「大阪締め」

もっとも有名なのは、大阪に伝わる「大阪締め」である。大阪内でも地域で作法が異なるそうだが、仕切り役が「お手を拝借」と言った後、

# 「打ーちまひょ(打ーちましょっ)」 (パン・パン)
# 「もひとつせ」 (パン・パン
# 「祝うて三度」(パパン・パン)(※天満・船場周辺)/(パン・パン・パン)(※生玉神社周辺)/(パンパン・パン)(※平野郷)

と手が入れられる。テンポや掛け声が異なるものの、ほぼ同系の手一本である。

大阪締めは、「男締め」「女締め」と性別によって最初の一言目が変わるところもあるそうで、男締めは「打ちまーしょ」、女締めは「打ーちましょ」で始まる。上方の落語家の間では女性がいても男締めで統一するらしい。

商都・大阪や古都・京都から、古来からの商都・博多への交易によってもたらされた文化は多々あり(博多でも博多弁に伝わっている「ごりょんさん」は大阪船場の言葉)、手一本も同様に伝わったものと考えられる。

津屋崎祇園山笠での「一本締め」

福岡市と北九州市の中間あたりにある津屋崎市には、津屋崎祇園山笠が存在する。これは博多祇園山笠がハカタウツシ(博多を模範とした祭りやしきたりが伝播した文化)で伝わった文化とされているが、津屋崎にも博多手一本と似た一本締めが行われる。

ほぼ博多手一本と同じだが、最後はパン・パンと手を打った後、最後の拍の代わりに万歳をするように両手を上げるのが特徴である。

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