山笠において奉納するために飾られる山笠。
高さ10~15メートルに及ぶ観賞用の山笠で、番外の櫛田神社の飾り山笠も含め全13本が福岡市内に飾られる(※2023年時点)。
表記は『飾山笠』『飾り山笠』『飾山』『飾り山』と様々あるのだが、博多祇園山笠振興会の公式表記では『飾り山笠』と定義されており、呼称としては『舁き山笠』と”山笠”を”やま”と読む事になっている。
舁き棒が取り付けられているが、観賞用のため動かされることはない。初めて飾り山笠を見た人の中には「博多の山笠はこんな大きい物を担ぐんだ」「こんな大きい物が走るのか」と驚き勘違いしてしまう人が多い。
毎年6月28日より飾り付け作業が行われ、7月1日の御神入れの神事を以て御神体となり、一般公開が始まる。
展示期間は7月14日の夜半まで。追い山笠が始まる前に山解きが行われ、櫛田神社の飾り山笠を除きすべての飾り山笠は福岡市内から姿を消す。
そもそも昔は「飾り山笠」は存在しておらず、舁き山笠が飾り山笠と同じサイズだった。
明治の近代化により博多の街に電線や路面電車の架線(高さ5メートル)が町中に張り巡らされるようになると、山笠が電線を切ってしまう事が問題になるようになる。 明治31年(1898年)当時の曾我部県知事は、そのような問題も含めて鑑み「博多祇園山笠の中止」を議会で提議した事で山笠は中止の危機に瀕する事になる。
架線切断問題をクリアするため、博多祇園山笠は背の低い『舁き山笠』と、据えて見物する背の高い『飾り山笠』の2つの山笠に分離させることになり、現在の飾り山笠が生まれた。
この分離前の背の高い舁き山笠を再現し、実際に山舁きされる飾り山笠が八番山笠・上川端通の「走る飾り山」である。
飾り山の飾りについては、いくつか伝統的な決まりがあある。
まず、番付によって飾りのタイプを変えなければならない。舁き山笠の番付(一番山笠、二番山笠・・・といった番号)は輪番で番付が変わるが、飾り山笠も同様で毎年輪番で番付が変わる(※番付固定の八番山笠 上川端通と番外の櫛田神社は除く)。その際、番付が奇数の山はは勇壮な飾り付けの「差し山」、偶数は優美な飾り付けの「堂山」にしないといけない。
その他、
等々あり、その他「人形のタブーを守らないといけない」等の暗黙の了解となっている習わしも存在している。
飾り山の標題は、人形師と流の打ち合わせによって決定する。
表の標題には歴史物が選ばれる事が多く、見送りは子供などが見て楽しむような標題が選ばれる傾向がある。
表の飾りは、飾り山笠の顔でもあるため、武者物・戦物が選ばれる事が多く、人気の武将や歴史上の人物、博多・福岡に関する歴史の出来事、日本神話などが採用される。またその年のNHK大河ドラマがテーマになる事が多々ある。
一方見送りの飾りは、協賛している企業などの意向が反映されることが多く、歴史物などに捕らわれない自由闊達な標題になることが多い。特にテレビ局が協賛している飾り山笠などは、子供が見て喜んでもらえる昔話やおとぎ話、人気アニメやテレビ番組などが登場する事が多く、標題が発表されると大きな話題となる時がある。(もちろん最優先は流の意向であるので、全てがその傾向とは限らない)
この表と見送りの傾向が逆になっているのは福岡ドームの飾り山笠で、毎年表が福岡ソフトバンクホークスがテーマになっており、見送りが歴史物の飾りになる。毎年標題が発表されると、今年のどの選手が山笠飾りになるか発表されるので、山笠ファン・ホークスファン共に大いに注目している。
今まで飾りになったアニメは数知れず。プロゴルファー猿、おそ松くん、ビックリマン、ドラゴンボールZ、クッキングパパ、幽遊白書、小さな天使ブッシュベイビー、ドクタースランプ、金色のガッシュベル、博多っ子純情、ゲゲゲの鬼太郎、ワンピース、ハンター×ハンターなどなど数え切れず。2011年には「美食屋トリコ」が新天町の飾り山笠に登場し話題になった。
2010年頃までは人気アニメ番組をテーマにした飾りが多数登場し毎年話題になっていたのだが、2011年以降は版権料などの問題もあり一時期よりはかなり数が減っている。
代わりに、地元テレビ局が制作しているテレビ番組が多くなってきており、「KBC アサデス」「ゴリパラ見聞録」「うどんMAP」などが標題になっている。
2009年に博多駅商店連合会の見送り「華丸・大吉のなんしようと?」で飾りになった博多大吉は、TBSラジオ「たまむすび」内で飾り山笠の飾りになったことについて「ぶっちゃけ、俺、”神”ですよ?」と自慢をしている。(なお、この時に飾られた華丸・大吉の人形は、春日市上白水のお好み焼き屋「粉や金蔵」の店内に飾られている※2024年時点)
この飾り山笠における飾りの風潮を変えたのは、昭和29年(1954年)十二番山笠・新天町の飾り山の見送り「シンデレラ」。
これまで伝統に則って武将物や戦物、歌舞伎物などが標題に選ばれてきたのだが、この年の新天町の飾り山の見送りが、山笠初の西洋をモチーフにしたフランス童話「シンデレラ」だった事から、「伝統護持」か「新進性」かという山笠人形論争が巻き起こり、博多の世論は真っ二つに割れた。
ただ、この「シンデレラ」の登場により、現在にも続く自由な標題が登場する生み出す大きなきっかけになったのは間違いなく、これを機に童話やアニメ、テレビ番組など様々なキャラクターやテーマが飾り山笠を飾るようになった。
なお、「伝統護持」か「新進性」かという事については、「あまりにも商業過ぎる」といったように長い間論争が続けられていたが、昭和40年の西日本新聞に於いて「飾り山笠はその時の流行を端的に反映しているといえる。この意味から今の飾り山に鉄腕アトムや西鉄ライオンズの飾り山が合っても決して伝統に逆らう物ではない」と援護の記事が出ており、結論はおよそ出ているという認識となっている。
なお、昭和29年はいろいろ議論を巻き起こす飾り山笠が多く登場した年で、十三番山笠因幡町の標題は表が「地獄極楽」見送りは「阿鼻地獄図」だった。これは前年に起こった大水害の犠牲者を弔うというテーマから、表には巨大な阿弥陀仏、見送りに閻魔大王が飾られ、山笠の前には賽銭用の釜が備えられ線香が焚かれるなど、こちらも前代未聞の飾り山として論争が巻き起こった。
外に飾られる飾り山笠は、風雨から山笠を守るため取り囲むように”山小屋”が作られる。
ただ、近年は山笠期間に台風などの悪天候が多くなり、安全性を重視して屋内に展示されるようになった飾り山も出てきている。
その際、山小屋は作られないのだが、飾り山笠の横側にも飾りが施され「四面飾り」の飾り山となり、見物客は360度どこからも飾りを楽しむことができる。
飾り山笠は7月15日の早朝までに、全てすべて解かれてしまう。
唯一例外なのは、櫛田神社に展示されている番外の飾り山笠で、”ほぼ”一年中展示されている。
櫛田神社の飾り山笠常設展示は、”博多のアイデアマン”田中諭吉氏が、神社の知名度向上と観光客誘致を訴えて博多祇園山笠振興会に櫛田神社の飾り山笠常設化を提案して「永代奉納番外飾り山笠」として実現したもので、1964年(昭和39年)から常設展示となった。
(ただし、6月に入るとその年の飾りの飾り付けのために一旦解かれて山笠がない期間が3週間ほどあり、飾りがない山笠をみて残念がる見物客が多い)
この外にも、山笠期間が終わった7月下旬には上川端商店街内にある川端ぜんざい広場に、その年の上川端通の飾り山が再度組み上げられて翌年の7月14日夜まで展示される。
8月には九州国立博物館にて天神一丁目の飾り山が再度飾られる(翌年4月一杯まで)。
上記の常時設置以外に、市内での大きなイベントが開催される等、特別な空間や特別なイベントが行われる場合、飾り山が立てられることがある。
2022年直近では、2021年に九州産業大学の60周年記念として東流の飾り山が九州産業大学に建てられた。