舁き手が山笠を舁く際に担う棒の事。
舁き山笠に使用される舁き棒の長さは約5.50メートルで、一本の重さは約60~70キログラム。
「走る飾り山笠」上川端通の舁き棒は、舁き山笠よりもさらに大きい山笠のため、長さ約7.2メートル、重さ約80キロもする。
素材は杉の木。中央に向かって太さが増す紡錘形のような円柱の形状をしている。
舁き棒は山笠を持ち上げれるよう六本の舁き棒が水平かつ等間隔に取り付けられており、山笠台には釘を一本も使わず麻縄だけで締めて取り付けられる。
棒の両端(棒鼻)には金属で作れらた「鼻冠」が取り付けられ、両外側の棒(一番棒)の鼻冠には山笠をコントロールする鼻縄を取り付けられる輪が付いている。
棒の中央部分には、各流や当時の役員の名前が銘として彫られている事が多い。
舁き棒に触っていいのは山笠神事にかかわる男達のみだけで、山笠参加者以外の者は何人たりとも触れてはいけない。
舁き棒は、配置の際は向きと順番が厳格に守られる。
向きは、前後(表・見送り)の方向が決まっており、向きは必ず揃えて配置される。
順番は、舁き棒は外側から順に「一番棒」「二番棒」「三番棒」と呼ばれており、その順番に配置される。「番」を省略し「一番」などと呼ぶ事もある。
つまり並べる際は、表・見送りを揃え、一番棒・二番・三番・三番・二番・一番棒という順に並べる事になる。
形状としてはどの棒も似ているため、櫛田神社に預かってもらう際は、翌年配置を間違わないよう鼻冠に番号や向きを書いた札や養生テープを張っていることが多い。
舁き棒は先端(棒鼻)が細く、中央(「台下」)に向かうにつれて太くなるよう作られている。同じ一番棒でも棒鼻と台下では高さが異なる。
また、一番棒は二番棒より三分(1センチ)高く、二番棒は三番棒より三分高くなるように設計されている。
舁き棒毎、棒の場所毎に棒の高さが違っており、舁き手も自分の背格好に合った場所に入る事になるため、常に同じポジションで山笠を舁く事になる。
つまり背が高い者は一番棒に、背が低い者は三番棒に付くことになる。
舁き棒の高さ違いについては、どんな体格の男でも参加できる(棒に付く)事が出来るようにした博多祇園山笠ならではの工夫なのかもしれない。
また、舁き手は舁き棒をどちらの肩で持ち上げるかも決められており、ポジションを示す時は「見送り」の「左肩」「三番棒」というような呼び方でポジションを表す。
舁き棒は、1トンもある山笠を持ち上げ、しかも激しい揺れを受け止める部材であるため、長期計画で新調計画が進められる事が多い。
東流は2022年(平成14年)に舁き棒を新調したが、次の一番山笠を迎える2032年(令和14年)に新調される予定となっている。
ちなみに、大黒流が1987年(昭和62年)に舁き棒を新調した時は、今まで使用していた舁き棒に刻まれている製作年月日の文字は長年の使用で削れて「明治・・・十八年」と、かすかにしか判読できず、正確な製作年代は誰も分からなかった。明治38年なら82年間、明治28年なら92年間も使い続けたことになる。
舁き棒に使われる木は杉の木。1トン以上の重さを支えつつ、激しい動きにも耐え、衝撃を分散させる必要があるので、舁き棒に使われる木材には「まっすぐ」で木目が「真円(しんえん:ゆがみがなく完全な円であること)」であることが求めれる。木目が真円である、つまり年輪が均等で真ん中にある必要があるため、使用される杉の木は山の北側で育ったまっすぐな木のみが候補として10数本選ばれ切り出される。
厳選した10数本の杉の木は、皮を剥いで丸太にして数年寝かせてじっくりと乾燥させる。そしてその中から最終的に反らずにヒビの入らなかった丈夫な丸太を6本選び出し、最もまっすぐな部分だけを切り出して、そこから角々を削りとって研磨して・・・と様々な工程を経て舁き棒が作られる。