舁き山笠を舁く時に、舁き棒にかける藁
長さは約90cm程度。二重に折り曲げて使用する。参加者は必ずに手にしている山笠の必需品。お汐井取りなど舁き縄を使用しない行事の時は、締め込みの後方に挟み込んでいる。首に掛けるのは無作法とされる。
舁き縄は、舁き棒を挟み込んだ後、縄の根元をギュッと絞り込むようにして固く握り、棒を肩に密着させる。舁き棒に掛けた後、捻じってずれないようにしたりもする。
舁き縄の最大の役目は、山舁きの際に足がもつれて転倒した際、大怪我を回避する「命綱」である。
足がもつれて転倒しても、舁き縄にしがみついたらスピードに合わせて歩調を整え復帰することができるし、何より高速移動している山笠台に巻き込まれる心配がない。山舁きをしている際に転倒した人を「死体」と呼ぶ人がいるぐらい、危険と隣合わせの祭りであることを再認識する。
そのため若手や新人は、何をおいても舁き縄をしっかり舁き棒に掛ける事の重要性を説かれる。
鉄砲を使うのは追い山笠馴らしからと決まっている流は、7月11日の行事(朝山笠・他流舁き)までは台上がりは舁き縄を手に持って鉄砲の代わりに振る。
舁き縄は詰所を設営した後、町ごとに舁き縄を作る日が設けられる。この舁き縄を作る事を「縄ない」と呼ぶ。
舁き縄は、3本の細目の縄を撚って編み上げ、一本の縄に仕立てる。主に2人で協力して作る事が多いが、ベテランになると足の親指で端を押さえながら器用に縄を編み上げる人もいる。
出来あがったばかりの縄は”けば”が多いので、ライターで軽くあぶって”けば”を焼いたり、舁き縄同士をこすり合わせて”けば”を落とす。これをしないと、締め込みに挟み込んだ時にチクチクして地味に痛いらしい。ライターであぶるのに失敗して少し焦げたりすると、仲間からいじられる事もある。
なお、山笠が終ると舁き縄はお役御免となる。捨てるのが忍びないのか、家の塀、柵、軒に掛けられていることもある。
2015年4月に静岡に博多祇園山笠が遠征した際、不要になった舁き縄を持って帰るのが面倒になったのか、地元の人に「縁結びの意味がある」といって渡してきた人もおり、報道腕章をつけている山笠ナビにそのご利益について目をキラキラさせながら説明を求めてきて大変困った経験がある。
舁き縄は山笠を象徴するアイテムであるため、1996年に開業した博多座のロゴマーク(デザインはグラフィックデザイナーの西島伊三雄氏)や、2023年に開業した地下鉄「櫛田神社前駅」のロゴマークには、舁き縄が使われている。
大昔は本当に荒っぽい人が多かったようで、1949年(昭和24年)の新聞記事によると、舁き縄を喧嘩の際の得物として使うため、素材を藁でなくロープにしたり、藁の中に針金をまき込んだうえ水につけて重量を増やし、重くなった舁き縄でなぐり合ってた時代もあったようで「警察も手をつけかねた」という回顧録が残っている。
そのため、1957年(昭和32年)の博多祇園山笠振興会からの各流への申し伝えの中に「かき縄はわら製に限り、ロープは絶対に使わない」というくだりが書かれていたりする。