午後5時過ぎにスタート地点に入った三流の舁き山。スタート地点は参加者でごった返しています。(なお、博多では山笠のスタート地点は山留といいますが、芦別では駅前に舁き山を据えておいた場所が山留というらしく、ここでは「スタート地点」と記載しています。)
スタート地点に入ると、あちらこちらで山舁き経験者による山笠を舁くレクチャーが自然発生的に始まります。初めて山笠を舁く人もいるので、棒への付き方、後押しの仕方、交代の仕方等々・・・巨大な山笠を動かすという事もあり、聞く側も教える側も真剣です。
大通りでは博多と同じように芦別の山笠の歴史や説明が紹介される場内アナウンスが始まります。その中では、博多の山笠の簡単な紹介が行われます。残念ながら博多の場内アナウンスでお馴染みの「そもそも」のフレーズは使われていませんでした・・・っ!
そしてやはり博多と同じように、気合の入ったカウントダウンのアナウンスが20分前から入ります。
「20分っ前っ!」
本部ステージでは、着座している芦別健夏山笠振興会の役員の紹介や、ゲストの紹介が行われます。
本部ステージ前では、先前走りに参加する子供たちへのインタビューが各流れ毎に行われます。最後は高学年による「一番時計取るぞ!」の掛け声に応じて、小さい子が「オー!」のと元気よく気勢を上げます。周辺沿道からは、子供たちに向けて拍手が送られました。
次第に近づいてくる舁き出し時間。緊張感と祭りのワクワク感が一帯を包み込みます。
「10っ分っ前っ!」
一番山笠の舁き出しまで10分を切りました。雨も奇跡的に上がり、気温も25.3度と涼しい中での追い山スタートになりそうです。参加者の話によるとその昔、舁き出しの時の気温が18度の時もあったそうで、その時は水法被の背中から湯気が立ちあがっていた寒い追い山の時もあったそうです。
参加者の間にも緊張の色が濃くなっていきます。
中には意外なことに外国の方もいらっしゃいます。この方は2年連続の参加だそうです。
「5分前っ!」
舁き出し5分前になりました。一番山笠・緑幸流の先走りの子供たちが「ヤ-ッ!」の声と共に出発。清道を廻っていく姿に拍手が送られます。
「1っ分っ前っ!」
「5秒前っ!」
アナウンスに合わせ「3!2!1!」と棒鼻が叩かれると舁き手から「ィヤァァア!」の咆哮と共に舁き山笠が一気に動き出します。舁き手の咆哮に合わせ、水当番が練習通りに勢い水を跳ね上げ、空中に弧を描くように飛んだ勢い水は、雨の如く舁き手達に降り注ぎました。令和7年度の芦別健夏山笠が始まりです。
「オイサ!」「オイサ!」の掛け声と共に舁き山笠は清道の旗をぐるりと一周半。鼻取りが力いっぱい清道方向に引き寄せ、コースを修正していきます。
本部ステージ向けてドンと据えると、素早く手拭が頭から下ろされ、一番山笠だけに許された誉、博多の祝い歌『祝いめでた』の唱和が北の大地の夕暮れに響き渡ります。
初めて聞く慣れない歌、慣れない手拍子。それでも参加者は山笠奉納のために全員で手を入れて共に歌い上げます。観客の間からも共に手拍子が上がります。
祝いめでたが謡いあげられると、再び手拭を頭に巻いて見送りの準備を確認した後、180度引き回すと、呼吸を整え「3!2!1!」「ィヤァァア!」の声と共に一気に追い山コースへ。沿道の拍手の中、舁き出していきました。
一番山笠・緑幸流が舁き出してから5分後、次は二番山笠・栄流が舁き出します。
清道回りを行い、山笠コースに飛び出していく栄流の向こう側に、一番山笠・緑幸流の舁き山笠が再び大通りを駆けていく姿が交錯しました。
最後に舁き出すのは三番山笠・北大黒流。山留櫓の竿竹が跳ね上がると一気に舁き出します。
目一本を入れながらきれいに清道の旗を廻ると、追い山コースへ飛び出していきました。
北大黒流が清道廻りを終えて追い山コースへ飛び出していくと、すぐに清道の旗が片付けられます。この清道の旗がある場所がゴール地点の廻り止めであり、芦別の山笠はおよそ15分から20分でゴールします。計算上ではあと5分後には舁き山笠は戻ってくることになりますので、山笠の運行の邪魔にならないよう大急ぎで片付けられます。
舁き山は芦別市の中心部をぐるりと囲んだような追い山コースを、全員の力を合わせて廻り止めを目指して舁き回っていきます。
芦別の追い山コース距離は1.4キロ。清道と廻り止めが同じ位置にある事から分かるように、芦別駅周辺の道をぐるりと一周する形のコース形状となっています。駅前の大通りの突き当りを右折してからが本当の勝負。110人前後の人数で、1トン近くある舁き山笠を担いで、1.4キロの道を駆け抜けていきます。
先走りの子供達もやってくる舁き山笠を呼び込むかのように手を振り上げて「オイサ!」「オイサ!」と元気よく叫びます。
雨上がりの夕焼けの中、舁き山笠が芦別の町を駆け抜けていきます。舁き手が少ないため、皆何度も何度も棒に食らいついて山笠を運んでいきます。「重ぇぇぇぇぇぇ!」見送りの棒に必死に食らいつきながら叫ぶ若者も。それでも皆必死に山笠を舁いていきます。
最後の関門は緩やかな上り坂。ここを昇り切ると後は一気に廻り止めです。地元の消防団が、消火ホースの横っ腹に穴をあけて勢い水を噴出させていました。豪快ですね!と話しかけたら、「でしょ?」と笑って返されました。
清道の旗を片付けられて5分後、一番山笠・緑幸流の先走りの子供達が廻り止めの下を潜ります。
駅前の角から、一番山笠・緑幸流の舁き山笠が姿を現しました。ゴールが見えた事で、皆に最後の力が入り一気にラストスパート。スピードがぐんと上がります。
廻り止めを越えると、舁き手の間から自然と拍手が巻き起こります。皆が一丸となって運んだ舁き山笠は無事廻り止めまで到着する事が出来ました。
その後、栄流、北大黒流と次々と廻り止めに到着します。
三流の舁き山笠が全て廻り止めに到着。三基の舁き山笠が本部ステージに向けて並べられると、いよいよ緊張のタイム発表です。
「一番山笠・緑幸流、14分56秒!」
「二番山笠・栄流、14分22秒!」
「三番山笠・北大黒流、13分56秒!」
最後のタイムが発表された瞬間、北大黒流からワッと大歓声が上がります。北大黒流は全コースのタイムにおいて3年連続1位となりました。
お互い健闘をたたえ合う中、すぐさま『餅まき』が始まります。餅まきは、一般的には家を建てた際に棟上げで行うイメージが強いですが、芦別ではちょっと大きなイベントには付き物で「どんなときでも餅まきはやるんだわ」とのこと。本部ステージから、山笠の上から、夕暮れの空に向かって丸餅がバンバン空に舞っていきます。
皆、笑顔で飛び交う餅を手を伸ばして取り合います。本部ステージの下には小学生が集まり「こっちこっち!」。ステージの人は「これじゃあ餅まきじゃなく、餅あげやないか」。
餅まきが終ると、田中広吉振興会会長が「追い山奉納ありがとうございました。手一本頂戴いたします」と、皆で博多手一本が入れられ、芦別の追い山は無事終了しました。
最後、三流の舁き山笠は駅前の山留に戻っていきます。これが最後の今年の山舁きです。会場の拍手に送られて、舁き山笠は駅前の山留に向かって走り出しました。
山留に三基の舁き山笠が揃えて並べられると、参加者は隊列を整え詰所に戻っていきます。オッショイの掛け声を掛けながら、本部ステージの前を横切り、最後の走りを行ってそれぞれの詰所へ帰っていきました。
栄流は直会会場前で円陣を組み、手一本を入れて締め。拍手の中、参加者が「飯だーーーっ!」と叫ぶとどっと沸きました。
応援組が直会会場前で湧いている中、流の構成メンバーの人達は沿道に配置したバケツを回収して回ります。芦別には若手もベテランも関係ありません。流の仕事は皆でする、という一致団結のもとで、流の活動が行われている事を改めて強く感じました。
北大黒流も詰所に戻ると円陣を組んで手一本。こちらも手一本後、参加者が「三連覇だー!」と叫び、皆で喜びを分かち合います。
北大黒流の詰所には、博多からやってきた中洲流の法被を着た人が皆を出迎えます。以前芦別の山笠に参加したことがある人ですが、今年博多の山笠に出ることが叶わず、そして芦別の山笠にも出ることが叶わなかったけど、居ても立っても居られずに芦別に来たとの事。
他にも、何度も参加している博多から参加している人がいたので、なぜ遠い遠い芦別の山笠に参加したくなるのですか?と聞いてみました。「みんなで一生懸命に作り上げようとしてる光景がいいんですよ。私もその輪の中に入りたいって思うんですよね」と答えてくれました。
日が暮れゆく芦別の町。また雨がパラパラと降り始めました。飾り山に灯がともされ、また今夜も芦別の町の片隅を飾り山が照らします。
緑幸流も詰所に戻ってきて、皆の顔から達成感があふれる笑顔がこぼれていました。
直会会場ではごりょんさん達が作った豚汁とおにぎりが振舞われ、皆で直会料理を食べながらワイワイとにぎやかにお互いの頑張りを讃え、感想を言い合っていました。
山笠ナビが博多から持ってきたにわか面をプレゼント。みんな「変なお面ー!」と笑いながら付けてくれました。
流内の当番町を務める町内会長が乾杯前に挨拶を行いました。
「嬉しいことがあります。今年は全コースが緑幸流が14分56秒で3位でした。1位の北大黒流が13分56秒でしたが、なんとその差は1分でした。1分以内で三流が収まるのはおそらく初めての事です。清道回りも1位の栄流が34秒で、3位の北大黒流が39秒。これも5秒以内に収まりました。清道回りも全コースも大接戦で、とても素晴らしかった山笠でした。」と、皆の健闘を、そして今年参加してくれたすべての人たちの健闘を讃えました。
「ぜひ、また来年もお願いします! 乾杯!」
直会が行われてる中、山笠に参加している男たちの仕事はまだ終わりません。後片付けをきちっとやって、きれいさっぱり山笠の痕跡を残さない事こそ山笠です。
沿道に片付けられた備品をトラックに詰め込み、また来年の山笠へと備えます。
追い山が終るのを待っていたかのように、雨がしとしと降つ続きます。今年の芦別の山笠は、雨の中、無事終了しました。
博多から参加している人は皆「みんなで作り上げる山笠」が魅力だと口をそろえて答えました。博多と芦別の距離、約1500キロメートル。その距離を越えてまでも参加したい魅力が芦別の山笠にあるようです。
北の大地の山笠、とても楽しく興味深いものでした。『芦別健夏山笠』。山笠ファンなら一度見てみたいと思いませんか? ぜひ北の大地に飛んでその魅力をあなたの目と肌で感じてみてください。