祭りの主役「山笠」の解説 YAMAKASA TRADITIONAL TECHNIC

職人技の結晶「山笠台」

山笠といえば絢爛豪華な飾り山や雄壮な舁き山の人形や飾りを思い浮かべますが、実はその飾りを乗せる土台部分である「山笠台」にも数多くの伝統と職人の技が受け継がれています。釘を一本も使わず縄と木材だけで締め上げられ、30人近い男達の渾身の力を受け止める山笠台について解説します。

厳格なルールと伝統に基づいて進められる山笠台づくり

博多祇園山笠は山笠を櫛田神社に奉納するお祭りですので、その主役となる「山笠」の組み立ての過程では様々な神事が執り行われ、古くからの伝統に基づいて厳格に進められます。

山笠の”要”、舁き棒を洗う「棒洗い」

6月の初旬に執り行われる行事。
山笠の「要」となる6本の舁き棒を櫛田神社の浜宮(博多区築港本町)の海水で洗い清め、櫛田神社神官からお祓いを受けます。

山笠台づくりの安全を祈願する「小屋入り」

山小屋の予定地に山笠台を組み立てる為の部材や縄を並べ、山笠台作りの安全を祈願する神事。この後、お払いをした部材を使って熟練の山大工達が山笠台の基本部分を組み立てます。組み立てには釘を一切使わず、稲縄、麻縄を駆使して美しく、そして堅牢に山台を組み上げていきます。

6本の舁き棒を固定する「棒締め」

山大工が組み立てた山笠台に、棒洗いで清めた6本の舁き棒をしっかりと固定する作業。ここからは当番町の若手も加勢し、山大工の監督の元で棒を山笠台に固定していきます。
棒の固定には麻縄を使い、てこの原理で固く固く締め上げていきます。若手達の威勢のいいかけ声と棒と縄がこすれてキューキューと「鳴く」様子は非常に迫力があり、まさに山笠台組み立てのクライマックスです。

山笠台の構造と名称

枝折(しおり)

山笠台の「天板」にあたる部分で、ここに飾りを乗せます。舁き山の場合は表(前部)と見送(後部)の縁を40cm程度空け、ここに台上がりが腰掛けます。

棒〆縄(ぼうじめなわ)

山笠台と舁き棒を固定する強固な麻縄。山笠の舁き出し時には、山笠台全体の「ねじれ」をここで受け止めて逃がす「緩衝材」の役割も担っています。

棒(舁き棒)

舁き手達が担ぐ棒で檜、または杉の丸太を使用します。左右三本ずつの計6本で、左右とも外側から内側に向かって「一番棒」「二番棒」「三番棒」と数えます。舁き手の肩のどちらを入れるかによって、「右肩一番棒」「左肩二番棒」などと区別します

棒鼻(ぼうばな)

舁き棒の先端部分のことで、銅の口金がはめ込まれています。また、左右の一番棒の棒鼻には山笠の方向や進路を操るための鼻縄(はななわ)が取り付けられます。

棒ぐり(ぼうぐり)

舁き棒を固定する部品です。舁き棒が当たる場所は半円状に削られており、舁き棒がきれいにはまる形状をしています。

棒受け(ぼううけ)

山笠台の主要骨格の一つ。前に進む力と上に持ち上げる力が同時にかかる部分で、材質は丈夫な桜や檜が使われます。

八つ文字縄(やつもじなわ)

山笠台と舁き棒を固定する強固な麻縄。山笠の舁き出し時には、山笠台全体の「ねじれ」をここで受け止めて逃がす「緩衝材」の役割も担っています。

への字(へのじ)

山笠台の四隅の足と足を繋いで固定するための「梁(はり)」の役割を果たします。その名の通り「へ」の字に湾曲した部材を選んで使用します。これは、転倒した舁き手が山笠に巻き込まれるのを防ぐための「逃げ」を確保するためで、博多祇園山笠の大きな特徴です。

火打ち(ひうち)

四隅の足を対角で結び、荒縄で補強した「梁」。への字を補強する役割を果たします。

胴がね(どうがね)

山笠台の足の先端に取り付けられる鉄の鋳物。地面の摩擦から山笠台の足を保護する役割を果たします。車輪や緩衝材は付いておらず金属がむき出しのため、乾いた路面の出走時には地面との摩擦で激しく火花が飛びます。

「棒締め」の流れ

山が舁かれるのを見た事がある人は多いでしょうが、山が『作られる』のを見た事がある人はあまりいないと思われます。
山笠の土台である山笠台(山台)は「棒締め」と呼ばれる作業で制作されます。「棒締め」は山笠の台に舁き棒を麻縄で固定していく作業で、5.45メートルの舁き棒6本を、釘など一本も使わず41メートルの麻縄2本だけで完全固定します。この縄だけで重さ1トンの山(上川端通りの走る飾り山になると2トン)を支える事になります。
この山台がどのような流れで出来上がっていくのか、山大工達が代々伝える伝統技術を交えてご覧ください。

素の山台は釘を使わずに組まれています。この山台に縄だけで舁き棒を取り付けます。

棒締めに使用する縄。細い物から太い物まで何種類も使用します。

こちらは舁き棒。全部で6本取り付けます。

このL字型の棒は、舁き縄を締める時に台の「への字」に縛り付けて、テコの原理で締め上げるための締め棒です。

棒締め開始。まず台の対角の足に縄を張って締めていきます。
一つ締め終わると、もう一方の対角の足も締めていきます。

対角に締め終わると束ねた縄をさらに荒縄でしっかり縛り束ねます。この一連を「火打ち」といい、台の「梁」の役目となります。

「火打ち」が出来たら次は斜め対角に縄を張っていきます。
「八つ文字縄」と呼ばれる山台の要の部分となります。

「火打ち」と同じようにそれぞれ対角に締めていきます。
上から見ると対角に締められているのがはっきり分かります。

対角に締め終わると縄を束ねて締めていきます。「八つ文字縄」はどの方向からかかった力もうまく逃がし、山笠全体をしなやかに保護する緩衝材の役割を果たします。
「八つ文字縄」を締め終わったら舁き棒を取り付ける事になります。

舁き棒は6本。「棒ぐり」と呼ばれる半円状にくり抜かれたくぼみにはめられます。

舁き棒6本すべて装着し、材木を使って舁き棒の端がきれいに揃ってるかチェックします。

棒を締めた時に舁き棒がずれないようにするため、材木を舁き棒に取り付けます。これは後ほど外します。

ここまでで1時間10分経過。表から見ると「への字」に締め棒が取り付けられています。

ここからが棒締めのクライマックス。山大工が配置につきました。棒締めは表・見送り同時に「棒〆縄(ぼうじめなわ)」を締め上げます。

棒締めのテコの原理の部分はこのようになっています。

「棒ー締めた!」の掛け声とともに締め棒が倒され、「棒〆縄」は「鳴きながら」締め上がります。締め上げる際、全員で縄を木槌で叩いて縄と棒のスペースを無くします。

この棒締めを6回繰り返して、棒締めは終わります。

最後に「八つ文字縄」の中央部分にお汐井取りで取ってきた砂が入った枡を吊り下げて完成です。

「左右の一番棒の「棒鼻」には山笠の方向や進路を操るための鼻縄と、石で作った重りが取り付けられました。

「棒ぐり」を下から見上げたところです。しっかり締ってるのが写真からでも分かります。

「棒〆縄」は山笠の舁き出し時には、山笠台全体の「ねじれ」をここで受け止めて逃がす「緩衝材」の役割も担っています。

細糸一本分の隙間さえない棒締め後の「棒〆縄」。この縄が1トンもの山の重さを支えます。

出来上がった山台に「枝折り(しおり)」と呼ばれる天板が乗せられ、この上に飾りを乗せます。